はじめに
世間には、戦争という重く深い歴史の影から生まれ、戦後も延々と売れ続けている奇妙な商品がいくつかある。
ジェリ缶、レイバンのアビエーター、Gショック、そして、本日取り上げる「ショカコーラ」だ。
ショカコーラ(Scho-Ka-Kola)
ドイツで1935年から作られているカフェイン入りチョコレートで、名前の由来は、Schokolade(チョコレート)、KAffee(コーヒー)、KOlanuss(コーラの実)のドイツ語頭文字を組み合わせたものだ。
簡単に言えば「チョコにコーヒーとコーラの実を混ぜたもの」である。
このチョコレート、商品としては素晴らしい逸品なのだが、ネットの記事を見ると毎度毎度
「カフェイン量がエナジードリンク超え!」
「レッドブルの7倍!」
「ヤバいカフェインチョコ!」
という煽り文句で紹介されている。
これは果たして本当だろうか。
筆者は以前から色々と思っていたので、今回は検証してみることにした。ただ、検証と言いつつ、ようは「私はこのチョコが好きである」というだけの記事になる可能性が極めて高い点を予めお詫びしておきたい。
ショカコーラとは何か
ここで一度ショカコーラの歴史を整理しておきたい。
ショカコーラは1935年、ベルリンのHildebrand Schokoladen-Werke(ヒルデブラント・ショコラーデン・ヴェルケ)社によって開発された。
翌1936年、ベルリンオリンピックを開催を絶好のタイミングと捉え、「アスリートのためのパフォーマンス向上チョコレート」として大々的にデビューさせた。
現代でいうところの「エナジー系食品」の走りである。
栄養補給と覚醒効果を兼ねたお菓子として、当時の世相にうまく乗っかった商品だ。
しかし、ご存じの通り、それからのドイツは平和な時代を歩まなかった。
1939年から始まる第二次世界大戦の中で、ショカコーラは「アスリート用エネルギーチョコレート」から「軍用糧食」に立場を変えていく。
特に初期はドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)のパイロット向けに「Fliegerschokolade(空軍チョコレート)」として配給され、夜間爆撃任務の眠気覚ましに重用された。
戦後期になると、陸軍の戦車兵や歩兵にも支給されるようになる。
当時の缶には「Die stärkende Schokolade(強壮チョコレート)」と印字されており、現在もよく当時の缶がミリタリーオークションで取引されている。状態の良い1940年前後製の缶は数万円で取引されており、ミリタリーコレクター界隈では地位を確立している。
戦後、このチョコレートには「ナチスドイツ軍御用達」という不名誉な肩書きが付くこととなった。
しかし、商品自体は普通のチョコレートでしかなく、戦犯品でも何でもないので、何事もなく販売は続けられ今に至る。
なお、戦時中までは缶のロゴにはフラクトゥール書体(俗にいうドイツのひげ文字)が使われていたが、戦後はラテン文字の通常書体に変更されている。
なんか最近、日本で売って無くね?
まず、ショカコーラを手に入れようとして気がついたことがある。
2026年に入ったくらいから日本国内であまり売っていない。
少し前まではカルディコーヒーファームの定番商品として、赤い缶と青い缶が両方並んでいたのだが、最近店舗を回ってみても見当たらないことが多い。成城石井、イカリスーパーも探してみた。前まであったがどういう訳か見つからない。
輸入元の事情なのか、流通の事情なのか、いずれにせよ日常的に近所で買える商品ではなくなってしまったようだ。Amazonや楽天で探しても1缶が1000円以上で高額販売されている状況だった。
これは由々しき事態である。ショカコーラ非常事態宣言だ。筆者にとってショカコーラは、徹夜作業の友であり、長距離ドライブの相棒であり、机の引き出しの中の予備兵糧であり、生活インフラの一部だ。
それが手に入らないというのは、ティー失った英国軍のような事態だ。
そこで、今回は北欧最大級のミリタリーショップ、フィンランドの「Varusteleka」から直接輸入することにした。
購入リンク:Varusteleka-Scho-Ka-Kola, 100 g Tin Box
https://varusteleka.com/en-jp/products/scho-ka-kola-100-g-tin-box
Varustelekaは元々ミリタリーグッズや放出品を扱う店だが、サバイバルフード、レーション(戦闘糧食)、そして当然のようにショカコーラも取り扱っている。なんで日本の輸入業者よりも早く確実にショカコーラが買えるのか。我が国の流通網は何をしているのか。
海外通販なので配送料はそこそこする。
そこで今回はこういう物が好きな友達にも声をかけ、友達の分もまとめて購入することにした。
10個買うと600円OFFという有難い割引もあったので活用した。
注文内容は以下の通りである。
説明 単価 数量 金額
Tactical Foodpack Freeze-Dried Apple Chips ¥500 JPY 2 ¥1,000 JPY
Scho-Ka-Kola, 100 g Tin Box – Red ¥600 JPY 10 ¥6,000 JPY
Scho-Ka-Kola, 100 g Tin Box – Blue ¥600 JPY 10 ¥6,000 JPY
配送手数料 ¥2,700 JPY
消費税 ¥0 JPY
割引 -¥600 JPY
合計 ¥15,700 JPY
支払い ¥15,100 JPY
赤缶10個、青缶10個。合計20缶。
ついでにアップルチップス(フリーズドライのリンゴ)も少し買った。
これはこれで普通に美味しかったが、本題から外れるので今回は省略する。
驚いたのは配送速度。
フィンランドのヘルシンキから、わずか1週間ピッタリで届いた。
どうせ忘れた頃に届くだろうと思っていたので驚いた。
なお、関税や消費税も特に発生しなかった。
ありがたく、そしてあっけない。
パッケージと中身
筆者の手元に届いたショカコーラの缶を眺めてみよう。
赤と青、二種類の缶がある。
赤缶:通常のミルクチョコレート系のオリジナル(カカオ含有量30%)
青缶:ダークビター系の「Zartherb(ツァートヘルプ)」(カカオ含有量50%)
筆者は基本的にビターチョコが好きなので青缶派だが、赤缶の方が「より戦時中のオリジナルに近い」という説もあり、レトロ感を求めるなら赤缶だ。
缶のサイズは100g。
手のひらに乗るサイズで、戦時中のポケットに収まる設計を引き継いでいる。
蓋を開ける円盤状のチョコレートが現れる。
「8個入りか」と思うかもしれないが、実は2段重ねになっており、下にもう8個ある。
合計16個。100gを16等分しているので、1ピースあたり約6.25gだ。
ピースの形状は、薄いショートケーキの一切れのような扇形で、独特の溝が入っている。
この溝、戦時中の製品では「軍隊で分け合うときに割りやすいように」入れられたものだそうだが、現在では予め完全に分割されている。合理化だろう。ドイツらしいといえばらしい。
スペックと味
まずはチョコレートとしてのスペックを見ておきたい。
カカオ含有量:
青缶で50%(これは普通にビターチョコの範疇)
原材料:
カカオマス、砂糖、粉ミルク、コーラナッツ、コーヒー、レシチン、香料、ココアバター。
特記事項:
カフェイン200mg / 100g
味は、カカオ50%にしては少し甘く感じる。
ビターチョコだと思って身構えると、意外と砂糖の主張がある。
しかしコーヒーとコーラナッツの苦味と渋味が後から追いかけてきて、最終的にはしっかりとビターな後味で終わる。
非常に独特な「複雑な苦味」が特徴で、これはこのチョコ以外ではちょっと経験できない。
例えるなら、エスプレッソを少し甘めにして、その風味を固体にしたような感じ。
食感は普通のチョコレートと比較するとやや硬く、ザクッ、というかカリッとした歯ごたえがある。
独自性のある美味しさだ。
カフェイン言うほど多くなくね?
ここからが本題だ。
ネット記事ではよく「レッドブルの7倍のカフェイン量!」などと書かれているショカコーラだが、これは本当に「ヤバい」量なのだろうか。
まず公称値を確認する。
ショカコーラ:
100gあたりカフェイン200mg
これだけ見ると確かに多そうである。
しかし、ここで重要なのは「100gあたり」という単位だ。
ショカコーラ1缶は100g、16ピースに分割されている。
つまり、1ピースあたりのカフェイン量は、200mg ÷ 16 ≒ 約12.5mgだ。
これを他の飲み物・食品と比較してみよう。
ドリップコーヒー 1杯(150ml):約90mg
インスタントコーヒー 1杯:約60mg
玉露 1杯:約160mg
紅茶 1杯:約30mg
緑茶 1杯:約20mg
レッドブル 1缶(185ml):約80mg
モンスターエナジー 1缶(355ml):約142mg
ショカコーラ 1ピース(6.25g):約12.5mg
ショカコーラ 1缶(100g):200mg
ショカコーラの1ピースは、コーヒー1杯のカフェイン量の約1/7くらいということだ。
コーヒー1杯分の眠気覚ましをショカコーラで得ようと思ったら、7〜8ピースを一気食いする必要がある。
半缶弱もこれを?
そして、ショカコーラ1缶(100g)を全部食べて、ようやくレッドブル2.5本分のカフェイン量となる。
「レッドブルの7倍」というのは、「100gあたり」での比較だ。
飲み物の100gと固形物の100gを同じ単位で比較する時点で、すでに無理がある。
レッドブル1缶を一気に飲み干すのはたぶん普通の行為だが、ショカコーラを1缶100g丸ごと一気食いするのは「ビターチョコ16ピース連続食い」であり、これは結構な苦行だ。私には無理。
しかも、ショカコーラはカカオ50%のビターチョコをベースに、コーヒーとコーラナッツの濃厚さまで重ねた、味の濃度が非常に高いチョコレートだ。
軽めのミルクチョコのように何枚も連続で食べられる代物ではない。
筆者はたまにつまむくらいで1個ずつ食べるような食べ方が多い。
パクパクと2〜3ピース食べると「もう一旦休憩しよう」となる。
5ピース食べると「今日はもういいかな」となる。
8ピースに到達するのはかなり気合が必要だ。
仮に1ピース食べたとして、得られるカフェインは12.5mg。コーヒーの7分の1くらいだ。
3ピース食べたとしてもコーヒーの半分くらいだ。
…結論として、ショカコーラはカフェイン入りチョコとしては多めだが、エナジードリンクや普通のコーヒーと比べて「ヤバい」量かと聞かれると、断じてそんなにヤバくはない。
普通にカフェインをとりたいだけならコーヒーを飲んだ方が早い。
では、なぜ「軍用チョコ」として有名なのか
ここでもう一つの疑問が浮かぶ。
「カフェイン量が大したことないなら、なぜわざわざ軍用チョコとして採用されたのか」
この疑問について、筆者は以前から一つの仮説を持っている。
それは、
「ドイツ国防軍の将校たちが、軍需物資の名目で美味しいチョコを調達したかっただけなのではないか」
というものだ。
考えてみてほしい。
戦時中のドイツは、カカオが輸入品である上に物資統制の対象でもあり、一般国民はチョコレートなど滅多に口にできなかった。
そんな時代に、
「カフェイン入りだから戦略物資である」
「眠気覚ましだから前線で必要である」
「強壮チョコだから兵士の士気維持に不可欠である」
と言い張れば、堂々と国家予算でチョコレートを調達できる。
しかも、わざわざ赤と青のオシャレな缶に入れて、ポケットに収まるサイズで、ピース分けまでされている。
これは戦闘糧食というよりは、明らかに将校たちが「役得」として楽しむための嗜好品ではないだろうか。
例えば、本気で兵士の覚醒だけを目的とするなら、安いカフェイン錠剤を支給した方が早いし安いし軽い。
実際、ドイツ軍は別途、ペルビチン(メタンフェタミン、ようは覚せい剤)入りのチョコレート、通称「パンツァーショコラーデ(戦車兵チョコレート)」も使っていたが、こちらは本気で「眠気を消し飛ばす」目的の物であり、ショカコーラとは別物だ。
ショカコーラは、戦時下のドイツで唯一公式に許された
「ちょっとカフェインが多い普通の美味しいチョコ」
だったというのが、筆者の見立てである。
当時の調達会議を妄想してみる
ここで、筆者の妄想を披露させて欲しい。
おそらく、1939年か1940年ごろのベルリンのどこかの会議室で、こんな会話が交わされていたのではないだろうか。
──────
国防軍補給局・参謀A:「諸君、ヒルデブラント社のショカコーラだが、これを我が国防軍の制式糧食として採用したいと思うのだが、いかがか?」
参謀B:「ふむ、根拠は?」
参謀A:「これにはカカオ、コーヒー、そしてアフリカ産のコーラナッツが含まれている。カフェイン含有量は通常のチョコレートと比較して高い。前線の兵士の眠気覚ましとして、極めて有効である!」
参謀B:「(缶を手に取り)……100gあたり200mgか。これは……。」
参謀A:「(早口で)コーヒーよりカフェインがたくさん入っている!と、とにかく覚醒効果は絶大である!」
参謀B:「(小声で)……いやコーヒーの方が多いだろ、1杯あたりで考えれば……。」
参謀A:「(咳払い)コーヒーは前線で淹れるのが大変である。チョコレートならばポケットに入れて運べる。これは戦略的優位性である」
参謀B:「(缶を開ける)……ふむ、ちょっと味見をしてもいいか。」
参謀A:「どうぞ。」
参謀B:「(一片を口に運ぶ)……」
参謀A:「どうよ?」
参謀B:「(めっちゃ美味いやんけ)……採用!」
参謀A:「(やったぜ!)」
参謀B:「ただし、まずは空軍のパイロットに支給するべきだと考える。彼らは夜間任務で最も眠気と戦っているからだ。美味しいから士気上がるだろうし。」
参謀A:「異議なし!」
参謀B:「(もう一片を口に運びながら)……それから、念のため、補給局の参謀本部にも配給用のサンプルを大量に確保しておくべきだろう。品質管理のためにな」
参謀A:「(深く頷きながら)当然である。我々もまた、夜遅くまで戦略を練る兵士なのだから」
参謀B:「(さらにもう一片)……うむ。これは戦略物資だ。間違いない」
参謀A:「異議なし」
──────
そして配給が始まる。
こんな調子で戦争中ずっと、参謀本部の引き出しの中にはショカコーラがたっぷり詰まっていたのではないだろうか。
戦争が終わり、戦勝国の調査官がやってきた時──
──────
GHQ調査官:「これは何だ。軍用チョコレートか?」
元国防軍参謀:「はい、これは……いや、これは戦略物資です。」
GHQ調査官:「成分を調べた。カフェインが多いとは聞いたが、コーヒー一杯と大差ないな。」
元国防軍参謀:「……コーラナッツが入っているのです。これはアフリカの……。」
GHQ調査官:「(缶を開けて一片食べる)……。。。」
GHQ調査官:「……。」
GHQ調査官:「……うんまぁ。」
GHQ調査官:「……販売継続でよろしい。」
元国防軍参謀:「やったぜ!」
──────
そして現代、極東の島国の筆者が20缶もまとめ買いをし、机の前でこの記事を書いている。
ヒルデブラント社からすれば、これほど成功したマーケティング戦略は他にあるだろうか。
戦争中は「戦略物資」として国家予算で大量買いされ、戦後は「歴史的軍用チョコ」として独自のブランド地位を確立し、現代では「ヤバいカフェインチョコ」としてあちこちでバズる。
90年間ほぼ同じレシピで、ほぼ同じ缶のデザインで、ずっと売れ続けている。
これは商業史的に見ても稀有な成功例だ。
その成功の根底には「実は普通に美味しいチョコレートである」という、シンプルな事実があるのかもしれない。
戦争に勝とうが負けようが、関税がかかろうがかからなかろうが、結局のところ、「美味いから売れる」わけだ。
結論:ショカコーラは「ヤバいチョコ」ではなく「ちょっとカフェイン多めの美味しいチョコ」
ここまでで、筆者の主張をまとめる。
1.ショカコーラのカフェイン量は、コーヒー1杯と比較すれば全然多くない。
2.「100gあたり」での比較は、固形物と液体の比較として無理がある。
3.カカオ50%のビターチョコにコーヒーとコーラナッツの苦味を加えた、非常に複雑で美味しいチョコレートである。
4.軍用チョコ扱いは、おそらく将校たちの「役得」の名残である
つまり、ショカコーラを「カフェインで覚醒したいから買う」のは、ある意味では少し無理がある。しかし、それを建前にして受験中の学生や仕事中の社会人たちが、「これはお菓子じゃなくて必要な物!」と堂々と食うことがある意味もっとも「らしい楽しみ方」なのかもしれない。
ショカコーラの真の価値は、その独特な風味、複雑な苦味、歴史的背景、缶のデザイン、そして「ヨーロッパの片隅で90年間ほぼ同じレシピで作り続けられている」という事実そのものにある。ついでに参謀本部にもママにも上司にも言い訳が効く。
こうした背景や口実が面白いから、特別な気分で食べることができ、それが何よりの調味料となっているのかもしれない。
カフェインだけが目当てなら、コンビニでブラックコーヒーを買えばいい。
500mlのコーヒーは1缶のショカコーラに匹敵するカフェインを含んでいる上に、量も多い。
そんなうんちくをぼやきながら、筆者は今日も机の引き出しに常備した青缶のショカコーラを1ピース取り出し、無駄に濃く淹れたヨークシャーティーと共に味わっている。
机の引き出しを開けるたび、あちこちでこれを「お菓子ではなく戦略物資だ」と言ってきた仲間たちと繋がっているような気がしてくる、そんなチョコレートだ。
